転居は固定費削減のチャンス! (3) 新電力はむしろ割高かも、という罠

転居を機に固定費削減をしよう!という話。前回は通信費について語った。

今回のテーマは電気料金である。

本来はここで、地味な新電力会社「シン・エナジー」の「プランC」が激安だと分かり、迷わず乗り換えた――とドヤ顔で書くつもりだった。
しかしその後、新電力業界に「燃料費高騰」「需給逼迫」という激震が走り、事情はだいぶ変わってしまった。

本記事の前半は「新電力業界がイケイケだった頃の話」をそのまま書いたものだが、2023年時点では、いわゆる「新電力」自体、おすすめしてよいものかどうか悩ましい状態である。

「何か安いらしい」という程度の認識で、新電力へ乗り換えるのは自殺行為である!

と最初に警告しておきたい。

引っ越すと、電力の契約は白紙に戻る

元々、我が家では東京電力の「おトクなナイト10」という料金プランを契約していた。22時から翌朝8時までの10時間の電力が割安、その他14時間の電力が割高なプランだった。

似たようなプランは今でも数社で見かけるが、「おトクなナイト10」の安さは別格であった。
というのは、料金設定が基本的に「原発事故前」のままだったのだ。「原発で大量生産される電力が夜間は余るので、格安でいいから誰か消費してくれ」と言わんばかりに、夜間10時間の料金が激安。一方で昼間の料金はそこまで割高でなかった。
当時の私は週5で日勤勤務だったから、昼間は家におらず、電力を消費する家事(典型的には洗濯物の乾燥)は専ら夜から早朝にかけて行っていた。「おトクなナイト10」なら、通常の半額以下の料金で、ドラム式乾燥機と浴室乾燥機を並行稼働できたわけだ。まさに私たちの生活にジャストフィットしており、これを上回る選択は当時存在しなかった。

ただ、こんな穴場的なプランが放っておかれるほど牧歌的な世の中ではない。
2016年3月31日をもって、「おトクなナイト10」の新規契約はできなくなっていた。さらに、その後の料金改定により、既存契約者に適用される料金もずいぶん高くなってしまった。

そして東京電力では、転居の際には「旧居の契約を解除し、新居の契約を新たに締結」という扱いになる。つまり旧居の「おトクなナイト10」は今の家を明け渡す時点で解約となり、新居では新たに契約を結ぶから「おトクなナイト10」は選べない。

したがって私たちは、否が応でも乗り換え先を探さねばならないのであった。

コロナ禍は電気代をも変えた

そこで、あらためて電気代を見直してみたところ、意外なことに気付いた。
以前に比べ、昼間の電力消費が増えていたのだ。

理由の一つは、息子が大きくなったことだ。
自分の部屋を使い始めたはいいが、電気はつけっぱなし、エアコンもドア全開でつけっぱなし――こんなことが珍しくない。

そしてもう一つの理由がコロナ禍である。
私が在宅勤務主体となったために、特に夏・冬は昼間の空調代が余計にかかるようになった。照明代もバカにならない。

「おトクなナイト10」は依然として割安ではあった。しかし、必ずしも最安の選択ではなくなっていたのである。
「一度解約したら元に戻れない」と知っていたため、既得権益を手放したくない一心で契約を継続していたが、もう少し早く見直すべきだった。

地味な新電力「シン・エナジー」の「プランC」が妙に安かった件

では、あらためて、今の生活に最もフィットする(つまり割安な)電力会社はどこか?と探したところ、冒頭に書いた「シン・エナジー」が見つかった。
ただし、東京電力管内の「プランC」限定である。

シン・エナジーの「プランC」は、「超」がつくほど割安だったのに、ほとんど世間に知れ渡っていなかった(と思われる)。
その大きな理由は、「プランC」の主なターゲットが一般家庭とは言い難いためだ。
この妙な安さは、中小企業を応援するためなのだろうか?

中小企業向けとはいえ、一般家庭でも工事費なしで「プランC」に加入できる場合がある。契約アンペア数が60Aの家庭だ。
詳しい説明は別ページに譲るが、「プランC」は商店などの小規模事業者を主なターゲットとしているとみえて、最小の契約容量が60A(6kVA)。一方、一般家庭向けプランの最大の契約容量も同じ60A(6kVA)である。
つまり、契約容量が60A(6kVA)の場合に限り、一般家庭でも、自腹で電気工事をせずに「プランC」へ移行できる(ことが多い)。

幸運にも、我が家は以前から契約アンペア数を60A(6kVA)にしていた。それで、乗り換え検討時に「プランC」の存在に気付いたのである。

契約アンペア数を上げると基本料金が上がる場合が多い。しかしそれを考慮しても、月平均で300kWh以上使用する家庭であればシン・エナジーのプランCが最安値となる場合が多かった。

そして、電力業界の「今」

ところが今、シン・エナジーのプランCを手放しでおすすめできない状況になっている。
シン・エナジーに限らず、新電力各社の料金は、よく調べないと「乗り換えたのに料金が高くなった」ということになりかねない状況だ。

その理由は、燃料費調整の仕組みにある。

燃料費調整制度とは?

発電のための燃料は主に輸入しており、その調達価格が電力料金に反映される。燃料費を電力料金に反映させるための仕組みが「燃料費調整制度」である。

この制度は元々、東京電力等の「昔からある電力会社」に導入されたものだ。
その後出てきた新電力各社も当然、原料調達価格を電力料金に転嫁する制度は持っているのだが、その制度が東京電力等と同じとは限らない。ここに危険が潜んでいる。

かつて、シン・エナジーの燃料費調整制度は、東京電力と全く同じ仕組みだった。これなら100%安心といえる。
天然ガスの価格が高騰した場合、シン・エナジーの料金は上がるが、同様に東京電力の料金も上がるので、シン・エナジーと東電の料金差は変わらない。一定以上の電力量であれば、シン・エナジーは常に東電より割安な料金体系なので、燃料費がどうあれ、東電からシン・エナジーに乗り換えて損はしない。

「市場価格連動」の新電力が増えている

ところが今、シン・エナジーの燃料費調整制度は、2023年以降、東電とは大きく異なる方式となった。
そもそも、制度の名称が「燃料費調整」から「電源調達調整」に変わった。「燃料」の調達費ではなく、「電源」すなわち「電力」の調達費という名目である。具体的には、JEPXという電力取引市場での価格をもとに、電源調達調整費が算出されるようになった。

電力会社は「自前の発電所で電気を生み出している」と思われがちだが、特に新電力各社は、「他人が発電した電気を買っている」場合が多い。
太陽光発電を含め、各社が発電して余った電気は、電気の卸売市場で売られている。新電力各社はこうした電力を購入し、自社顧客に再販している場合が多いのである。

自分で火力発電するなら、燃料費が電気の原価に大きく影響してくる。そのため、火力発電所を多く持つ東京電力は、燃料費をもとに電気料金を決められるようにしている。
一方、「どこかの誰か」が「何らかの方法」で発電した電気を買うだけなら、燃料費はその価格に直接関係ない。単に市場価格が高いか安いか、それだけだ。

乱高下は当たり前の電力卸売市場

燃料費が高ければ市場価格も上がりそうなものだが、こと電気に関してはそうとも言い切れない。
電気は貯めておけないので、今この瞬間、「電気を使いたい」という需要に対し、「電気を売りたい」という供給がどの程度あるか、ということで市場価格が決まってくる。
いくら燃料費が高くても、全国の家庭の屋根にある太陽光発電がフル稼働する初夏の晴れた日には、電気は安値で取引されている。実際の市場価格を見ると、時刻や天候により、驚くほど価格が変動しているので、興味があれば見てほしい。

上記ページの左側で「30分コマ」を選び、受渡日をたとえば今日の日付にすると、右側に約定価格のグラフが現れる。これを執筆している日だと、朝7時頃までは13円/kWh程度である一方、17時頃には50円/kWhまで跳ね上がっている。

1日だけ見てもこの変動だから、年間を通じて見ると市場価格には相当なブレがある。
有名なのが、2021年初頭に起きた電力不足だ。この時、燃料価格は特に高くなかったが、種々のトラブルが重なって日本中が電力不足に陥った。その結果、市場価格は暴騰といってもいい状況になり、市場価格に連動した料金体系の新電力各社を利用していた消費者は、法外な(といっても市場価格に照らすと適正な)電気料金を請求されることになった。

結論:拙速は危険、じっくり見極めを

話が長くなったが、大事なのは、新電力各社が東京電力の「燃料費調整制度」をそのまま採用しているのか、それとも別の制度(典型的には市場価格との連動)を採用しているのか、という点である。もし東電と異なる制度を採用している新電力会社だと、電力市場の動向によっては東京電力より高くつく可能性も大いにある。

燃料費調整の上限など、まだまだ説明し切れていない事柄もあるのだが、「安い!」という表面的な宣伝だけで安易に乗り換えると、かえって損をする可能性がある、ということは念頭においていただきたい。
新居での生活が落ち着くまで、電力会社は東京電力等の「従来の電力会社」でいいのではないか?というのが、私の今のところの結論である。