転居は固定費削減のチャンス! (4) 「新ガス」もハイリスク・ローリターンか?

電気料金と並んで「乗り換え」が流行っているのが都市ガスだ。
新たに出てきた電力会社を「新電力」などと呼ぶが、都市ガスに関しては「新ガス」という呼び方をあまり聞かない気がする。しかし位置付けとしてはまさに「新ガス」である。

我が家も、引越を機に「東京ガス」から「ENEOS都市ガス」へと乗り換えた。
その結果、多少は安くなった。しかし「気持ちだけ」だ。電気料金ほどのインパクトはない。
さらにこちらも、燃料費調整の仕組みに起因するリスクを抱えているため、「ハイリスク・ローリターン」の典型ではないかと思っている。

床暖・エコジョーズ・浴室乾燥の3点セットは要注意

新規参入するガス会社は、東京ガスから自社への乗り換えを促したい。
だから当然、東京ガスより安い料金を提示してくる、はずである。

ところがこの「常識」が、ガス業界では通用しない場合がある。
東京ガスの各種割引を駆使している場合、新規参入各社の方がむしろ割高という例が結構あるのだ。

東京ガスの「セット割」が強力すぎる件

我が家の転居後がまさにそれだった。

新居のガス器具は、高効率のガス給湯器「エコジョーズ」に始まり、ガス会社の一押し「ガス床暖房」、さらに「ガス浴室乾燥機」まである。
キッチンもIHではなくガスコンロなので立派なガス器具といえるが、ここまでのラインナップを見ると霞んで見える。

そして、「エコジョーズ」「ガス床暖房」「ガス浴室乾燥機」の3点セットがあると、東京ガスから「最恵国待遇」を受けることができるのだ。
まず、床暖房を設備していることで「暖らんプラン」の適用を受けられる。12~4月検針分について通常より安い料金が適用されるというもので、ガス使用量にもよるが、モデル家庭で5%程度の割引率となる。
ここに「エコジョーズ」「ガス浴室乾燥機」の2点が加わると「セット割」という追加の割引が適用され、上記料金からさらに6%割引となる。この割引は通年適用なので、「暖らんプラン」の恩恵がない夏でも6%、冬なら(モデル家庭で)約11%安くなる

ひるがえって新規参入ガス会社を見ると、なるほど確かに通常の料金は東京ガスより安い。
しかし「エコジョーズ」「ガス床暖房」「ガス浴室乾燥機」の3点セットがあるという前提で調べてみると、東京ガスの「暖らんプラン+セット割」に相当する割引メニューを用意しているガス会社は意外に見当たらず、割引まで考慮すれば東京ガスの方がむしろ安いということが多い。

ENEOSガス、意地の「0.1%」安

そんな中、かろうじて東京ガスを下回ってきたのがENEOS都市ガスである。

同社の場合、ガス床暖房があれば「床暖プラン(TK)」というものに加入できる。
このプランの料金設定は結構あからさまで、「東京ガスの暖らんプランの一律6.1%引き」という設定である。つまり、東京ガスの「暖らんプラン」より必ず6.1%安くなるという料金設定だ。

しかし前述のとおり、東京ガスの「暖らんプラン」には「セット割」があり、エコジョーズとガス浴室乾燥機があればここから6%引きとなる。
ENEOS都市ガスには、この「セット割」に相当する割引はない。

しかししかし、ENEOS都市ガスは無条件で6.1%引きだから、6% vs 6.1%で、セット割の対象者でもENEOS都市ガスの方が0.1%だけ安くなる。どうだ参ったか!というわけである。

そこまで調べた上で、私たちは、わずか0.1%安いだけのENEOS都市ガスに乗り換えた。
(なお2023年10月までは、「暖らんプラン」に対する「床暖プラン(TK)」の割引率は7%であり、東京ガス「セット割」とENEOSガスとの料金差は1%だった。最初から差が0.1%だったら、後述の「原料費調整リスク」を考慮し、乗り換えなかったと思う。)

 

この結果は、新居がガス会社のショールームばりの設備であったためだ、というところに注意していただきたい。
たとえば転居前の我が家であれば、ガス床暖房はあるが給湯器はエコジョーズではないし、浴室乾燥機も電気だ。つまり東京ガスなら、「暖らんプラン」は適用になるが、それ以上の割引はない。これがENEOS都市ガスなら6.1%引きになるというのだから、差額はかなり大きい。もっと早く乗り換えておけばよかったと思う。

以上、高級なガス器具がなくガス利用に消極的な家庭ほど、都市ガスの乗り換えに向いているという妙なお話。

ガスにもあるぞ! 燃料費調整「上限額」の罠

最後に燃料費調整の話をしておく。
長いので最初に結論を書いておくが、原料費が高騰した際には、ENEOSガスより東京ガスの方が安くつく可能性があるので、平時のわずかな差額のためのガス会社を乗り換えるかどうか、よく考えた方がよい。
(面倒になったので、ENEOSガス以外の原料費調整制度については調べていない。以下の記事を参考に各自調べていただきたい。)

ENEOSガスの原料費調整制度は東京ガスと同一

電力と同様、都市ガスにも燃料費調整制度(ガス流にいうと「原料費調整制度」)がある。
たとえばENEOSガスの場合は以下のページにあるとおりだ。

基準単価および毎月の調整額は東京ガスと同じものを採用」とある。ここが非常に大事なポイントである。
つまり、たとえ原料費が高騰しても、東京ガスもENEOSガスも同じだけ料金が上がるので、東京ガスよりENEOSガスが高くなることはないから安心してください、ということを言っている。

しかし、上限は同じではなかった

ところが、これで話は終わらない。
電気代高騰の際に話題になった「上限」の問題がある。

東京ガスの場合、原料費調整額には上限がある。

つまり、予想をはるかに超えるほど原料費が上がった場合、それをダイレクトにガス料金に転嫁すると生活が立ちゆかなくなる人が出てくるので、調整額に一定の上限を設け、それを超えた原料費高騰分は消費者に転嫁しません(東京ガスが身を切ります)というルールである。

先に紹介したページは、燃料費高騰に堪えかねた東京ガスが、上限額を変更しますというお知らせだった。
いくら上限額があっても、その額が変更されることもあると判明した。だから消費者がいつまでも上限に守られているというわけでもないのだが、それでも消費者からすれば、上限額があるというのは一つの安心材料ではある。

この上限額について、ENEOSガスは「2023年11月から、そもそも上限額という制度をなくします」と言い出した(←あえて不正確な表現にしているので、真相は続きをお読みいただきたい)。

2023年11月分のガス料金から、ENEOSガスに限り、原料費調整額の上限がなくなるとのことだ。
つまり原料費が高騰した際、東京ガス(依然、上限あり)の方が安くつく可能性が出てきたということを言っている。

釈明:元々、ENEOSガスの上限額はなかった

以下、ENEOSガスの名誉のために、正確に事情を説明する。

私もこれを読むまで全く知らなかったのだが、ENEOSガスには、元々原料費調整額の上限はなかった。利用者は皆、そういう約款を承知の上で契約していた、ということになっている。
そもそも、ガス会社の中の人を含めて、「原料費が上限に到達する」とは誰も思っていなかったふしがある。一応、制度上は上限を設けてあるが、そこまで値上がりすることはないよね、と楽観していたわけだ。だから上限額についてきちんとした説明がなされてこなかったと想像する。

ところが、2022年に原料費が一気に上がり、東京ガスでは上限額に達した。つまり東京ガスが一部自腹で対処した。

一方、ENEOSガスの約款には上限額がないので、原料費高騰分はすべて消費者に転嫁された――と思ったら、実際には転嫁されず、ENEOSガスが上限額を超える分を自腹で払ったのだという。
その理由は「宣伝文句が紛らわしかったから」。どうも「当社の原料費調整制度は東京ガスと全く同じです」といった主旨の広告をしていたらしいのだ。いくら約款に書いてあるとはいえ、「いや、でも上限額の有無だけは東京ガスと違います」と後で言い出すと大問題になると思ったのだろう。

その後、2023年になってガス料金の改定があったので、これを機に「元来、ENEOSガスには原料費調整の上限がありません、だからこれからは約款どおり原料費高騰分を全部請求しますよ」ということをきちんと説明しましょう、という話になった。それが上記ページの意味するところである。

結論:「新ガス」は本当に安いのか、よく調べてから乗り換えを!

長くなったが、ENEOSガスは原料費高騰時に料金が青天井となるリスクを抱えている。
そのわりに、東京ガスとの差額は、場合によって0.1%しかない。

ENEOSガス以外の会社については調べていないが、どの会社についても懸念される点は同じだ。
本記事で述べたように「ガス設備が充実している家庭への割引がどの程度か」と「原料費調整制度が東京ガスと同じなのかどうか(上限はあるかどうか)」、この2点を調べた上で乗り換えを判断していただきたいと思う。