高めに売り出すのは自滅への道!? 売出提案額の罠

各社の査定資料を見たところ、売出提案額について、3つのレンジを提示してくる不動産屋が複数あった。
業界では当たり前なのだろうが、私自身は「なぜ、1つの物件なのに売出提案額が3種類あるのか」という事情を知らなかったので、どういう理屈なのかを紹介しておく。

なお、査定額と売出提案額の関係については別の記事に書いたので、よく分からないという方はそちらを読んでいただきたい。

売出提案額設定の基本

ある物件について、比較的安めの金額で売り出したとする。
割安感があるから、すぐに買い手がつく。ただ儲けは小さい。

逆に、比較的高めの金額で売りに出したとすると、割高感があるから、なかなか買い手がつかない。したがって売れるまでに時間を要する。その代わり、売れれば儲けは大きい。

だから、とにかく早く売りたい人は売出提案額を低めにすればよいし、時間に余裕のある人は売出提案額を高めにしてもよい。これが売出提案額の決め方の基本である。

不動産屋によっては、1つの物件に対して売出提案額を3つ提示してくる。
つまり「安め」「標準」「高め」と3種類の提案額があり、急いで売りたい人は「安め」、時間に余裕があって高利益を狙いたい人は「高め」、どちらともいえない人は「標準」がお勧めです、最終的にはお客様の意向をふまえて決めましょう、といった説明になっている。

売り物件にも鮮度がある!?

ここまでは予想がつくのだが、とある不動産屋の査定書を読んだところ、素人にとって予想外なことが書いてあった。
売出提案額を高めに設定し、長期間売れ残った場合のデメリットについてである。

曰く、長期間売れずに残っていると物件の「新鮮さ」が失われ、適正価格まで値下げしてもなかなか売れなくなる、最終的には適正価格より安値で成約することもある、と。
つまり、高めの売り出し額にすると、うまくいけば儲かる一方、失敗すると「時間がかかる」だけでなく「金銭的にも損をする」ということになる、らしい。

築10年の物件を売り出し、半年間売れ残ったとする。すると「築10.5年」だから、当初の「築10年」より安値になるのは誰でも分かる。
しかし実際には、築年数ではなく「売りに出してから半年も経過している」、つまり「売れ残り期間が半年もある」ということが理由で、成約価格が下がるというのだ。
これ、経験がないとちょっと理解しがたい。生鮮食品でもあるまいし。

長期間売れなくて困ることとは?

家の売却をすっかり終えた段階での私の理解としては、長期間売れ残ることによる悪影響は以下の3つだ。

  1. 買い主の代理人(不動産屋)が物件を探す際、レインズ(不動産業界の情報システム)で物件情報を「新着順にソート」するので、売り出しから時間の経っている物件は検索結果の下の方に追いやられ、なかなか見てもらえない
  2. レインズの情報を見れば長期間売れ残っていることがバレるため、不動産屋に足元を見られて、安値で決着させられる
  3. 長期間売れ残ると、不動産屋が想定していた広告宣伝費を使い切ってしまい、販売活動がトーンダウンして、さらに売れにくくなる

不動産も検索順位が命

1点目はどこかのサイトの受け売りなので、真偽のほどは定かではない。だが、これがもし本当だとすれば、「プロだったら何百件でも検索結果を調べて最適な物件を提案しろよ!」と言いたくなってしまう。
ただ実際には不動産屋も人間なので、「Googleで上位10件ぐらい眺めたら、疲れて検索をやめる」といった仕事のやり方になる場合もあるだろう、とは想像できる。

「味方」に裏切られる?

2点目についてはちょっと複雑、というか闇が深い。

比較的分かりやすいのは「買い主のエージェントである不動産屋に足元を見られる」という可能性である。
不動産屋はレインズの情報で「いつからこの物件を売っているか」ということを調べられる。ここで半年、1年と売れ残っていることが判明すれば、「さぞ売り主は焦っていることだろう」と目星を付け、強気の価格交渉を迫ってくるだろう。
私自身、売り出しから3ヶ月を過ぎたころから弱気になり始めていたので、実感として分かる。

 

一方、これは聞いた話でしかないのだが、ひどい場合には、味方であるはずの「売り主のエージェント」、つまり売り主が媒介契約を結んでいる不動産屋に「買いたたかれる」ということもあるそうだ。しかもそれが、契約当初から仕組まれている場合すらあるという。

手口はこうだ。
査定を依頼された不動産屋は、不当に高い査定額(売出提案額)で売り主を釣って、媒介契約を獲得する。
そして、その後はろくに営業活動をしない。不当な高値だから広告を出しても売れない。
待つこと数ヶ月、売れ残り感が出てきたところで、売り主に対して「買い取り」を勧める。

大抵の不動産屋では、「買い主を見つけてくる」という媒介契約のほかに、「不動産屋が自らその物件を買い取る」あるいは「買い取ってくれる業者を紹介する」というメニューを用意している。
が、この場合の買い取り価格は、一般の買い主に売る場合と比べて著しく安くなるらしい。不動産屋が在庫リスクを負うのだから当然ではある。
なので「業者による買い取り」は、急いで売りたいとか、人に知られずに売りたいとかいう理由がない限りは避けたい選択肢である。

ここまでひどい例は多くないと信じたいが、そうでなくても、売れ残り期間が長くなれば、売り主側のエージェントが販売価格を下げるよう提案してくることは考えられる。
「いつまでも売れないと客が困るから、断腸の思いで値引きを提案する」という親切心にも思えるが、次の項で述べるように、半分は自分の都合であると思われる。

「売れなくても不動産屋は困らない」は本当か?

3点目は「広告費が尽きるのでジリ貧になる」という問題。不動産屋の口から語られることはあまりないだろうが、私自身が今回実際に体験したことであり、今後の記事で実情を明らかにしていく。

不動産屋からすると、長期間売れ残っても仲介手数料が増えるわけではない。「不良在庫」に対するコスト、すなわち広告料(典型的にはSUUMO等の情報サイトの掲載費)を徐々に絞っていくことは必定といえる。

「家が売れなくても不動産屋は困らない、だから不動産屋は、おいしい話でないと営業活動に力を入れず塩漬けにしておく」といった話を時々聞く。
一面ではそうかもしれないが、そうはいってもSUUMOに掲載するぐらいの営業活動はするのだろうから、媒介契約を結んでいる間は月々のコストが発生する。しかも、最終的に売れなければ仲介手数料は入ってこないから丸損だ。売り主が「売れるまで何年かかってもいいや」と思っているような場合、ずっと売れ残って困るのは不動産屋の方ではないか。
そうすると、2点目で述べたように「売り主に価格を下げさせて、何とか売り切る」という方向に舵を切る可能性も出てくるのだろう。

まとめ:妥当な価格を自分で判断する眼を養おう

長くなったが、この記事で言いたかったことは、過剰に高い金額で売り出すと、時間がかかるだけでなく売れ残り・買いたたきリスクが生じるということである。

査定額や売出提案額はいくらでも操作できる。「ウチに任せてくれれば高く売りますよ」というのは客引きの常套手段である。
詳細は別の記事に譲るが、不動産屋の査定額を盲信せず、自分でも妥当な価格を探るべきだ。