【あわや脱税】持ち家から退居した年の地震保険料控除はどうなる?

  • 年の途中で転居した場合、丸1年分の地震保険料控除を受けられるのか?
  • 国税庁に問い合わせた結果、窓口により回答が違った
  • 居住していた期間があるなら全額控除可能と判断したが、税務署や税理士に確認を

家を売ったことで、毎年の年末調整や確定申告の内容も変わった。
その意識はあったが、家を売る前の年末調整で気付けなかったことがあった。地震保険料控除だ。

年末調整、いつもの調子でやってしまったが……

旧居を引き払ったのが11月で、家が売れたのは翌年の5月。転居した年の年末調整の時点では「住んではいないが、家は持っている」という状況だった。
我が家の地震保険料は、毎年1月に向こう1年分を先払いするというサイクルだ。1月に向こう1年分を支払って、その年の途中で転居した。秋頃、その分の証明書が保険会社から届いた。特に何も考えず、例年どおり年末調整で地震保険料を申告した。

しかし、家が売れて精神的に落ち着いた頃、「あれっ」と思った。
直近の年末調整で地震保険料を申告した。が、年末の時点で、地震保険の対象となる家に居住していなかった。これはまずかったのではないか?
地震保険料控除は、あくまで「自らが居住する家」に対する保険料が対象だ。年初には住んでいたが、年末には住んでいなかった。これ、どうなの?

気になっていろいろ調べてみた。以下、税理士でもない素人の見解である。よって正確な判断は税務署なり税理士なりに聞いていただきたい
なお、調べた限りでは、保険会社のQ&Aには全く情報がなかった。そこまで細かいことを気にする人はいないということなのだろう。いやこれ、全国に該当者が結構いると思うんだけどな……

「年末時点の状況で判断する」というルールは見当たらない

まず、「年末に住んでいないから、地震保険料控除は全額認められない」という懸念について調べてみた。調べた限り「年末時点の状況で判断する」というルールはないようだ。
障害者控除のように年末時点の状況で適用可否を判断するものは確かにある。が、地震保険料控除については「いつ時点の状況で、その1年分すべての判断を行う」といった規定が見当たらなかった。もちろん「年始時点で判断する」「全期間の居住を要する」という規定もない。

こうなると、「全額認めない」という結論には至らないと考えられる。保険期間の一部はその家に居住していたのだから。

もちろん、転居して空き家になり、あとは売るだけという状態の「我が家」に対して地震保険料を新たに支払った場合、さすがに地震保険料控除は認められないだろう。保険期間内に居住した実績がないのだから、「自分の家」というよりは「商品」に対して支払った保険料というべきだ。
なので、以後、本記事では「転居後に新たに支払った地震保険料」については考えないことにする。

居住中に保険料を支払っていればいいのか?

次に、保険料の支払時期が問題なのか?という問題。
今回は居住中の1月に、向こう1年分の保険料を支払った。では、「居住中に支払ったから全額控除を認める」というルールは、あるのかないのか?

これも、そのものズバリの回答はなかった。それどころか、「保険料の支払時期は関係ない」「いや、保険料支払時に居住していれば全額OK」の双方に結びつく手がかりが得られたため、ますます分からなくなってしまった。

説1:支払時期は関係ない

まず「保険料の支払時期は関係ない」説から。

複数年の地震保険料を一括で納入するという契約形態がある。この場合、1年ごとに当該年分の保険料を控除額として計上するとのことであった。
つまり5年分を前払いする場合には「1年×5回」に分割計上する。会計でいえば「費用収益対応の原則」といったところか。

これは、保険料を支払っていない年にも地震保険料控除があるということだ。だから保険料の納入時期は控除の可否に影響しないように思える。

考えてみれば、家を購入した時には居住開始前に初回の地震保険料を納める。「支払った時には居住してませんでしたよね」という理由でこれが対象外となるのはおかしな話だ。このことからも、保険料の支払時期は控除の可否に無関係と考えるのが妥当だろう。

説2:支払時点で住んでいないとNG

一方で「支払時点で住んでいればOK」説も捨てきれない。

海外に転勤した人の社会保険料・生命保険料控除は、日本在住時に支払った保険料のみ控除対象となる。1年分を一括で支払う場合には、支払の時点で日本在住ならば、支払額の全額が生命保険料控除の対象となるという。

この考えを地震保険料控除についても援用するとどうなるか? 支払いの時点で居住していれば、支払額の全額が控除の対象となる、と思う。

所得税法には何と書いてあるか

仕方がないので、所得税法を読むことにした。

(地震保険料控除)
第七十七条 居住者が、各年において、自己若しくは自己と生計を一にする配偶者その他の親族の有する家屋で常時その居住の用に供するもの又はこれらの者の有する第九条第一項第九号(非課税所得)に規定する資産を保険又は共済の目的とし、かつ、地震若しくは噴火又はこれらによる津波を直接又は間接の原因とする火災、損壊、埋没又は流失による損害(以下この項において「地震等損害」という。)によりこれらの資産について生じた損失の額をてん補する保険金又は共済金が支払われる損害保険契約等に係る地震等損害部分の保険料又は掛金(政令で定めるものを除く。以下この項において「地震保険料」という。)を支払つた場合には、その年中に支払つた地震保険料の金額の合計額(その年において損害保険契約等に基づく剰余金の分配若しくは割戻金の割戻しを受け、又は損害保険契約等に基づき分配を受ける剰余金若しくは割戻しを受ける割戻金をもつて地震保険料の払込みに充てた場合には当該剰余金又は割戻金の額(地震保険料に係る部分の金額に限る。)を控除した残額とし、その金額が五万円を超える場合には五万円とする。)を、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。

ずいぶん長い文だが、ポイントとして「その年中に支払つた地震保険料の金額の合計額」を控除する、とある。つまり保険料を支払った年に控除を受けるのが原則である。また、「いつ」居住していればよいかについては規定がない
したがって、下位の法令に特段の規定がなければ、「支払った時点でその家に居住している」ということでよいことになる。

ちなみに、所得税法でいう「居住者」とは「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人」をいう。「その家の居住者」という意味ではない。
77条の主語は「居住者」であるので、海外に出てしまったらいきなり対象外になる。一方、国内にとどまっている限りは地震保険料控除の可能性が残されている。

この後、所得税法、施行令、施行規則、基本通達まで、関係しそうなところを一通り読んだ。しかし真相は分からずじまいだった。

電話で質問、回答にバラツキあり

埒があかないので、2021年11月、国税庁電話相談センターに問い合わせてみた。
回答は「1年間の保険料を月割りにして、全く居住していなかった月の分は除いて申告すべき。ただ追徴課税が数百円オーダーなので、修正申告の判断は任せます」とのことであった。

回答の内容には妥当性があると思う一方、「月割り」というところに違和感を覚えた。そこで、その後すぐ、居住地を管轄する税務署の個人課税部門にも問い合わせてみた。
回答は「実際に保険料を支払っており、その時点で居住していたのであるから、全額控除が認められる」とのことであった。

どっちなんだよ!

ここからは個人の勝手な判断になるのだが、月割り説は怪しいと思う。
月割りとするのであれば、その根拠があるはずだ。なぜ月割りなんでしょうか? 日割りではダメなんでしょうか? この反論に答えられるだけの根拠がなければおかしいではないか。
何かの総則みたいなところに書かれていると分かりづらいが、素人が探した限りでは、月割りにする根拠は見当たらなかった。

このことから、所轄税務署の回答、「保険料支払いの時点で居住していたのだから全額控除」の方が正解ではないかと、素人の私は思う。

結論:自分で調べてください

地震保険料控除は最大5万円。大金持ちで所得税率50%でも1年間でたかだか25000円しか税金が安くならない。つまり、地震保険料控除が認められなかったとしても追徴額は数万オーダーだ。庶民の私の場合はこの10分の1ぐらいになる。
そういう「しょぼい案件」ということもあってか、「転居時の地震保険料控除の扱い」という、相当数の実例がありそうなケースに対して、Web上ではほとんど誰も言及していない。国税庁に聞いても答えが一定しない。

なので、私は特に修正申告をしなかった。すなわち、「地震保険料を支払った時点で居住していたから、地震保険料の全額が控除対象として認められる」という判断である。今のところ追徴課税の知らせも来ていない。

もちろん、翌年(居住実態がなかった)の地震保険料は申告していない。

繰り返すが、私は税理士ではない。実際の年末調整や確定申告に際しては税務署なり税理士なりに相談していただきたい。

 

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